2019年10月21日

感想:クリムト展〜ウィーンと日本1900 at豊田市美術館/美しい黄金体験〜名古屋城

クリムト絵画の本物をこの目で観られる機会ということで、名古屋は豊田市美術館へ足を運びました。
※美しい黄金体験〜名古屋城本丸御殿障壁画は記事の最後です。

グスタフ・クリムトとは、世紀末ウィーンを代表する帝政オーストリアの画家。
最も有名な代表作「接吻」はオーストリアの国宝級の存在。ウィーンの宮殿にある美術館に、この一枚の絵を目的に世界中から人が訪れるといいます。
日本でも人気が高く、特に絵やイラストに関心の在る若い世代なら一度は通るミュシャとクリムト、ではないかと。

クリムト…アルフォンス・ミュシャと並んで不動のツートップ、そこにビアズリーギュスターヴ・モローを加えて世紀末御三家(表現が古っ)と呼びたいw
以上あくまで個人的な見解です。(絵画史の重要性は無視したあくまで人気準拠)


クリムト_月夜三姉妹.jpg

今回のイラストは「ベートーヴェンフリーズ」より

ベートーヴェンが変身した正義の味方〜空に輝くぅきらきら旋律「黄金の戦士」その行く手を阻む敵対勢力「怪物テュフォンとゴルゴン三人姉妹」
悪、不貞、淫欲などの象徴として登場する三姉妹…を、おひさしぶり月夜三姉妹にかわいく演じてもらいました。※ひょっとしたらゴルゴンの娘達ぢゃなくって蛇娘だったかも

クリムト…正直なところ、私の敬愛するアルフォンス・ミュシャほど思い入れはないのですが、同時代の人気画家の作品を見て知っておきたいと思いました。


ミュシャ後L.jpg

こちらはミュシャ晩年の代表作「スラヴ叙事詩」来日で大変話題になった2017年国立新美術館「ミュシャ展」の感想レポートです。
感想:ミュシャ展 at国立新美術館



さて、初めて訪れる豊田市美術館
日本最大規模のクリムト展といえど、見られる作品点数は少なめなので、きっと様々な補足展示で話が膨らませてあるのでしょうと期待。
まずは修業時代の古典的で神業的な油絵、これ学生さんの作品ですか??そして家族の紹介。弟と親友と共に歩んだ青春時代。妹達の存在も重要だったようです。


■ジャポニスムの影響
次に、当時ヨーロッパでブームだったという日本美術の影響を紹介する展示。
フェノロサの東洋美術史の図録には琳派も掲載されていたし、浮世絵なども。こういうもので学んでいたのかなと。
「日本の春画三十六撰 菱川師宣、鈴木春信、喜多川歌麿」モノクロ画なのに、着物の柔らかさや派手な意匠を繊細なタッチで表現している神業レベルの美しさでした(悪いけど今回の展示で一番感動したわ)
欧州では有名な知られざる日本人画家、小原古邨の版画もありました。

とはいえクリムトのコレクションは、東洋美術全般なので、中国・朝鮮の美術工芸品なども含まれます。
浮世絵や着物など、この時代の画家達に大きな影響を与えたジャポニスム偉大なり!となんでも日本の影響と考えて悦に入るのはいかがなものかと思うのですが、
しかし実際、縦長の判型、簡略化、余白の研究、絵画中に文字を取り込む、といったクリムトや同時代の作品群を見ていると、浮世絵の構図を学習した跡が伺えます。

Klimt - Friends I (Sisters), 1907
Gustav Klimt [Public domain]
以下、Wikimedia Commonsより画像を引用

ジャポニスムなど東洋美術を吸収しつつ、ヨーロッパに無かった独自の新しい様式を確立した、というのが大事な所なのでしょう。

しかしながら、クリムトの柔らかく華美な装飾的衣装と、エロチックな画題は、前述の春画からの影響なのでは…と想像すると楽しくなる、そんな展示構成でした。

ジャポニスムについて、こちらの記事はご参考まで。
感想:葛飾北斎〜富士を超えてatあべのハルカス美術館


■クリムトの作品
さて、待望のクリムトの有名な作品を鑑賞しました。

IMG_1766.JPG


ユディトI
この一枚に様々なタッチや要素が共存している、描画の多彩さ巧みさに目が行きました。
伝統の写実的表現の人物と印象派風のぼやけたタッチ、装飾的に施された金も、背景とやわらかな衣服で異なる印象。
弟が制作したという金彫の額もイメージを増長する要素です。
しかし最後はやはりこの女性の恍惚の表情が強く印象に残ります。
「ファム・ファタル」(宿命の女〜男を破滅させる魔性の女)の代表的一枚。
私の周りでは、沢田研二顔…ということになってますが(´ω`)

Judith 1 (cropped)
Gustav Klimt [Public domain]

ベートーヴェンフリーズ
これを見に私は名古屋に行きました。1902年の第14回分離派(通称ベートーヴェン展)の会場の壁面を飾った大作の再現。

Beethovenfries.jpg
By グスタフ・クリムト - First uploaded to de.wikipedia by de:Benutzer:Hans Bug., パブリック・ドメイン, Link


現物は壁の漆喰と金のマチエールが印象的。クリムト独特の女性描写(今風にキャラデザと呼んでいいかも)が洗練された作品をじっくり見る事ができました。

物議を醸したウィーン大学大講堂の天井画(「哲学」「医学」「法学」)は現存しないため写真のみでしたが、ここから年月を経てクリムトキャラは完成をみたのだな、と。
おそらく後世へ与えた影響は大きいだろうね、ミュシャと同じくSFイラストの祖とでもいうような…人気があるわけだ。

その当たりの考察は、まもなく京都にも巡ってくる「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ―線の魔術」で期待。 

後世の評価はともかく、当時は「総合芸術」を目指した時代。
絵画と、建築、工芸、さらに音楽や舞台芸術など、異分野を統合し未来の芸術を目指した「モダニズム」前夜。
そして、音楽の革命家ベートーヴェンを讃えるというテーマが、音楽の都として誇りを持つウィーンらしい。

ところでこの「ベートーヴェンフリーズ」を明るい照明下でじっくり細かい所まで鑑賞できたのはありがたい事だったのですが…正直、この作品から劇的感動はあまり感じなかった。
これは照明の問題のような気がします。
1902年のベートーヴェン展ではどのような照明で見せられていたのか…会場の雰囲気はどうだったのか、気になります。

後述しますが、美しい壁画の見せ方、金の魅せ方に関して、帰りに立ち寄った名古屋城の障壁画がとても素晴らしかったのですよ。


肖像画と風景画
クリムトの有名な「黄金の時代」以外の作品もいくつか在りました。

女性を魅力的に描く技量はピカイチだったため、ウィーン社交界で有力者の妻や娘の肖像画の依頼を沢山請け負っていたといいます。
ご依頼の肖像画作品は、流行の画風で美しく無難に描いているものと、クリムトの個性を発揮した「美しいお顔以外は容赦なくアバンギャルド」なものがあって、作品によっては本人がお気に召さず物置き行きになったものもあったらしい。ご依頼仕事って難しい。

このクリムト絶頂期は「ベートーヴェンフリーズ」の失敗から訪れたというのも皮肉なお話し。
卑猥!醜悪!退廃的!と世間的に非難ゴーゴーで、国から仕事の依頼は絶え、「分離派」からも批判の声が上がり脱退の遠因にもなった一方で、肖像画制作と個人的作品世界の追求がなされる契機にもなり、文字通りの黄金期を迎えるのだそうです。
ちなみに、クリムトのパトロンは、有名な哲学者を生んだヴィトゲンシュタイン家などの東欧系ユダヤ人富豪。
ウィーンの新しい芸術を支えたのは彼らだが、隣国ドイツでは反ユダヤ主義が広がっていた、という時代。

一方、都会を離れて休暇を過ごしていた湖畔で、クリムトは多数の風景画を描いていました。
世に知られた個性的な画風とまるで違う、素直な風景画(といいつつ抽象化などの試みはみうけられる)に、都会の絵画はあくまでお仕事モード、こちらがプライベートな心の絵画なのかな、と思ったのですが。
永遠の恋人エミーリエと過ごした湖畔ですからね。

女性好き・反道徳的な行いやライフスタイルも話題となるクリムトですが、その奔放な姿が後世の「芸術家のイメージ」をつくったのかもしれませんが、あんまりその辺興味ないっす。
あえて言うと、ミュシャとの大きな違いはそこかな、と。
ミュシャとクリムトは、ほぼ同年代で画家の王ハンス・マカルトの影響を受け、同じ時代を駆け抜けた作家。そういう意味での興味です(熱いミュシャ推し!)

因みにクリムトの元カノで作曲家グスタフ・マーラーの妻になったアルマという女性が、とんでもなく「ミューズにしてファム・ファタル」なのだそうですよ、どうでもいいですが。


女の三世代
代表作のひとつ「女の三世代」は傑作でした。黄金の画風も洗練を極めてもうただ眼福。
身近に起きた不幸から現れた「生と死」というテーマの重さを含みつつ、絵画の印象として華麗なところがクリムトらしいなと。

The Three Ages of Woman.jpg
By Gustav Klimt - https://www.flickr.com/photos/griffinlb/3360468120, Public Domain, Link



「女の三世代」で展示は終了。「接吻」はきっとウィーンが離さないのでしょう。


史上まれにみる文化の爛熟を示したという世紀末ウィーン、時代の転換期、保守的な社会に戦いを挑んだというクリムトの芸術。
技法や表現は革新的だけど、描かれたテーマはむしろ古典的な印象です。

芸術はその後、モダニストとイズムの作家達がより過激な戦いを繰り広げて、世紀末は早々に時代の彼方へ追いやられてしまう。
ある意味、ポストならぬ、アーリーモダンな作家たち。
その中で飛び抜けて人気なのは、やはりクリムトの「作家性」。描いた絵そのものの魅力なのでしょうね。

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以上「クリムト展〜ウィーンと日本1900」の感想でした。


■美しい黄金体験〜名古屋城本丸御殿障壁画

尾張名古屋は城で保つ〜意味は良く分かりませんがwせっかく名古屋まで来たからにはお城へGO。
名古屋城にはとっても美しい障壁画空間を体験することができます。
狩野探幽狩野派絵師による障壁画と天井画が現代の画工の手で完璧に再現され、ピカピカに光ってます。

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名古屋城と本丸御殿は太平洋戦争末期1945年の空襲で焼失したといいます。当時の記録写真など見ましたが、町のシンボル、貴重な文化財が焼かれたとは…どれだけの衝撃だった事でしょう。
本丸御殿は平成になって復元工事が始まり、平成30年に完成公開されました。私も二度目の訪問です。

何が素晴らしいかと言うと、築城当時のままの美が忠実に再現されていることです。
劣化しやすい金箔や緑青が美しく本来の姿で見る事ができる。狩野派の絵師がどのような美意識で色を使っていたのかは、ここから学ばなければいけません。

教科書などで学ぶ中世の古典美術はたいてい劣化した当時の美を留めない姿です。
社寺仏閣は古さにこそ味わいがある…古都に住むものとしてそれはよーく分かっています。
文化財は古ければ古いほど価値がある、江戸期より室町以前が断然価値が高い、正倉院展が開催される奈良県民はよく理解していますとも。

しかし、絵師としての価値観は、また別よね、という話です。

名古屋城の本丸御殿障壁画は、絵というより空間そのもので、江戸時代に完成された武家の建築と装飾の「美的空間」が理解できる、いわばテーマパーク。(名古屋城さんすいません)
この空間体験を得て、はじめて狩野派の障壁画の魅了が腑に落ちるのではないでしょうか。
図書館の図録より、美術館より、本物の体験が名古屋城にあり!(よいしょー)

なにより印象的なのが、金が醸し出す柔らかい美しさです。部屋を照らす灯火(もちろん代用ライト)の反射が作りだしているのだと思うのですが、これが劇的な効果を空間に与え、幽玄な雰囲気を演出しているのだと分かりました。嗚呼、陰影礼賛ニッポン。

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そこで偶然ながらもクリムト展と繋がりました。前述した「ベートーヴェンフリーズ」の物足りなさは、そういうことだと。クリムトは黄金の効果で光の扱いにどこまで意識的だったのだろう?
クリムトが東洋を旅したという話は聞きませんし、ジャポニスムに沸く当時のウイーンやパリでどこまで日本的な美に触れられたか定かではありませんが、もし、クリムトやミュシャ、世紀末の画家達が、このような本物の障壁画を目の当たりにできたなら…と想像力を豊に夢想するのも面白いですね。

IMG_1862.JPG

と、いうわけで、名古屋ゴールドエクスペリエンス(黄金体験)なアート旅でした。無駄ァ足にならなくてよかったよかった。
作品に金色を使い過ぎるのは下手なやり方と避けていたのですが…よい見本を目で感じてきたことですし、
墨絵アートてぬぐいも、きらきら輝くキラヤバなシリーズやってみようかな。

令和_赤.jpg

墨絵アートてぬぐい〜恋ひ恋ひて☆赤染め

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2019年09月25日

感想:「天上の虹」にみる持統天皇誕生の物語 at万葉文化館/初秋の花々

久しぶりの展覧会感想です。

少しずつお勉強中の万葉集と古代の歴史を学ぼうと行ってきました。
里中満智子先生の漫画「天上の虹」の複製原稿の展示が中心なのですが、その作品の背景や時代考証について専門的な説明がつくという文化館らしい展示で、古代にうとい私のような初心者には入りやすいありがたい企画でした。万葉集のお話もたっぷり。

マンガで語る古代大和U 里中満智子『 天上の虹』にみる持統天皇誕生の物語
万葉文化館
※会期終了しています


漫画で古代史というと…石ノ森章太郎先生の「日本の歴史」に描かれた持統天皇が、やり手だけどちょっと恐ろしい女性に描かれていたのですが、こちらの鸕野讃良皇女うののさららのひめみこ/後の持統天皇)は見た目に麗しく可愛い女性像なので、解釈によってずいぶん違うんだなぁという初見の印象だったのですが、読み進めて行くと、やっぱりやり手で強い意志を持った女性像でした。
その時代に生きた歴史上の人物に命を吹き込んだ濃厚なドラマに引き込まれます。

今までは事実を客観的に述べた一般的な歴史を読んでいたので、壬申の乱前後のドロドロとした政争はなんとも恐ろしく正直だめだったのですが、人々の生きた情が通う物語で読むとまるで印象が変わりました。それが一番よかったです。

作者曰く、公式の事実はゆがめない「解釈」がドラマになる。
古代の事は不明な事が多く、それをどのような根拠で解釈し想像力で補ったか、という話は興味深かった(殯宮の描写とか)
『天上の虹』は研究を重ねながら完結まで数十年かかったという作品。一度じっくり読んでみたいなぁ。
個人的には…高市皇子(たけちのみこ)が超イケテる王子さまで安心したw

まだまだ力量不足ですが、私もいつか古代の都人を主題に描いてみたいな、と思います。

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こちらは明日香村にある、天武・持統天皇陵。万葉文化館からも近い。

【文化服装学院×奈良ファッションショー2019「WA」】
今年の夏も恒例の文化服装学院×奈良ファッションショーを拝見。
こつこつイラストに描いております。

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こちらは奈良キッズコレクション。

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【初秋の花々】
残暑が終わったばかりですが、秋の花々はもう咲き始めていますね。
公園のダリアもすくすくと育っておりました。

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こちらは庭にお迎えした花々。秋の七草のひとつ、藤袴。そして紫式部(コムラサキ)いずれも日本に昔から自生している花。

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希少な藤袴…昔は河原等に多く咲いていたのだけれど今は激減している花だとか。
春日大社の「萬葉植物園」で求めました。販売用の植物をお求めなら無料で入場できるそうですよ。珍しい花々がみつかります。


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2018年12月04日

感想:東山魁夷展 at京都近代美術館〜美しすぎる障壁画の世界

私がかつて見た中で最も美しいと思う日本画の一つは…東山魁夷先生の描かれた「海」
随分前になりますが、奈良の唐招提寺御影堂で拝見した、鑑真和上をお慰めするために描かれたという、美しく穏やかな緑の海と、静けさが伝わってくる深山を描いた障壁画です。

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その感動を再びかみしめるため足を運びました。
生誕110年 東山魁夷展 at京都近代美術館

今回は美術館で拝見したためより客観的にじっくり鑑賞できました、そして昔は気づかなかった「鑑真和上の故郷中国を描いた水墨画」の魅力について感想を述べますね。


【東山魁夷画伯の作品世界】
東山魁夷画伯といえば大変著名な日本画家。香川を旅した時とか今まで何度か絵を拝見する機会はあったのですが、改めてその全容を知る事となりました。
生涯をかけて描きつづけた美しい自然風景。それは「単純化→抽象化→普遍性の獲得」であると感得いたしました。

私らしくない固い文面ですね〜(´ω`)まーびっくりするぐらい整った風景画だなーという印象ですね。
私も2018年は風景を描く事に意欲を燃やしていたところで、この広大な「自然」にどう向き合って描くのかを求めて訪れたのですが…。
その答えは、まるで抽象絵画のような風景画、描ききれない複雑混沌とした自然を単純化し、そこに普遍的美を見いだす、という絵でした。
(よくよく見るとただ単純なリピートではなく、時折その反復の和を乱す要素が入っているのがミソですねぇ)

国民的画家と呼ばれたという画伯の代表作が、日本の何処にでもありそうなごく普通の草むらの絵だったりするのが素晴らしいです。

もう一つの特長としましては、単一の色で描かれている、夕景・夜景が多い、季節では晩秋とか厳寒の冬の絵がほとんどのような印象でした。
北欧に惹かれて旅をして神秘的な作品を残しておられたり…暗い・冷たい・寂しいのがお好きだったのかなと。
音楽で言えば短調(マイナー調)ですかね、確かにそういうの心に染みるナー。

風景画は心の投影、という事でした。
こういうのって作家の内なる何かなんですかね?南方の明るさに惹かれたゴーギャンや田中一村と比較すると興味深いです。


【唐招提寺障壁画】
魁夷画伯の作品世界を巡った後はいよいよ障壁画です。
こちらは先生熟年期の1970年代にほぼ10年がかりで制作されたという大作。

唐招提寺 御影堂は平成大修理中でしばらくはお目にかかれないのだけれど、この障壁画はやはり鑑真和上像とともにあることで特別な意味を持ち、深い感動を与えてくれます。
とはいえ美術館で拝見するのだから一枚の絵として鑑賞・客観的に分析するのもひとつの経験でした(いろいろテクをみつけてきましたとも、ええ)

とはいいながら、仏教美術をそのような目で見る事にやましさを感じるのも事実です、仏像をプロダクトデザインとして見ているワタシ罰当たり。(以後、不遜な発言はご容赦ください)

まずは再びお目にかかれた、魁夷画伯の暖かく穏やかな海に感動を禁じ得ません。
盲目の鑑真和上に穏やかな日本の海をお見せしたいと、先生自ら日本各地の海を写生する旅に出てついに普遍的な日本の海を描きあげたというエピをもし知らなかったとしても、この美しさは響きますよね。

海の波打つ音が穏やかだけど力強く響いてくるかのような「濤声」と呼応するように、深い山奥の霊気を描いた「山雲」こちらはしんと静まりかえった静寂、夏でも凍えるような冷たさと神秘性を感じさせます。
不思議な事に何処から鳥の声まで響いてくるような…と思ったら、さりげなく雲雀が描かれておりました。

今流行りの360度VR映像なら、触ると飛んでいきそうですね(触っちゃ駄目ですが)
それにしてもVR以上にリアリティのある空間が50年前に描かれているなんて。
いやもっと昔から障壁画というヴァーチャルリアリティ空間は日本にあったのですねぇ。

襖絵だからなのか、日本の風景を丹念に描いているからなのか、東洋的な「間」というか、どことなく抜け感があるからなのか、これまで見てきた魁夷先生の作品とはちょっと違う印象です。

その思いは、さらに第二期の障壁画、鑑真和尚の故郷中国の風景を描いた水墨で深まりました。
正直申し上げますと、最初に御影堂を訪れた時には、美しすぎる海と山の色彩にただただ心打たれ、これら水墨の異国風景はスルーしてしまいましたが、今回は違います。

私も水墨を手がける絵師の端くれとしてあれから多少目は肥やしてきました。
逆に言うと、中国の水墨画を知らないと「桂林月宵」や「黄山暁雲」の事はピンと来ないのは仕方ないのかもしれません(いまだそれほどピンとこないワタシ)
そこには中国の水墨を育んだともいう絶景の景勝地、幻想的なそびえ立つ山また山(というか画家の妄想でなく本当にあったのかという)が描かれているという事です。

揚州薫風」は鑑真和尚の故郷だからでしょうか、やさしく暖かくノスタルジックな雰囲気でした。
モノクロの水墨なのに暖かいだなんて?絵に込められたストーリーでそう感じているのでしょうか?
いえ、どうやらそれは全体的にぼんやりした遠い風景として描かれているからでしょう。
ここは美術館なのを幸いに細部まで食い入るように検証したのですが(流石にお寺ではできませぬよ)ディティールをはっきり描かないぼかした味わいが幻想的で、不思議な夢心地を誘うのです。

なるほど、ぼかしが美しいのはまさに水墨画の面目躍如、そしてどちらかといえば冷たく厳しい風景を好んで描いておられた魁夷画伯のいままでとは違う画境を拓いたのではないかな、と。
この時初めて水墨画に挑まれたということです、その切欠になったのが、この大作のため当時は渡航が難しかったという中国を訪れ、水墨画を生んだ中国の風景に触れたからだそうです。

現在、東京でも東山魁夷展が行われ、「美の巨人」でもこの御影堂第二期障壁画を詳しく取り上げてくれたお陰で知りました。
この水墨画は紙に滲み止めを施して描かれているとか…え!?ぼかしてないんかーい(´ω`)という驚き。
墨で描いてもそこは魁夷画伯流の描き方で描いているんですね。
ぼかさずにぼんやりと描きあげた「モノクロームの幻夢」いやーこれ見習いたい(´ω`)

とまぁ、絵描きの性で技術的なところばかりほじくってみっともないですが、やはり大事なのは何が描かれているか、こころで感じ取ることですよね。
穏やかな海と、静かな深山、日本の普遍的な美しい風景に磨き上げられた画面や、異国の風景には、その土地の空気感や過ぎ去った時間まで息づいているような気がします。
それを綿密な写生の積み重ねで実現しているという事実に、深い畏敬の念を抱きます。

ところで、この御影堂障壁画に取り組んでいる同じ時期に、魁夷画伯は好んでファンタジックな白馬を描いていたのだそうです。いったいどういった心の現れだったのか、絵画芸術は本当に奥深いですね。

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京近美2018日本画の巨匠たちシリーズ(勝手に命名)
次は、生誕150年〜横山大観展のお話です。こちらはおもしろおかしく書く予定(やめなさい)

感想:藤田嗣治展 at京都国立近代美術館〜乳白色の夢・戦争・祈り

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