会期は終了しましたが、恒例の感想blogをお届けいたします。
公式特設site→流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美 at京都国立博物館
感想を一言で申しますと「これが雅~MIYABIということか☆」
王朝美の手本として、古の神絵師の御技を学んで参りました。
数ある和の美の系譜の中で、本命本流と私が思う王朝の美(個人的な好みはあるでしょーが)
機会を見つけて学んでいるのですが、絵描きだからといって単に手を動かすだけではだめで。
「文化」を知るには博物館に通って本物を見たりと、時間をかけてこつこつ学ばなければ知り得る世界ではないと思っています。
例えば、王朝美ルネサンスの淋派が、江戸期に新たな「歌仙絵」オマージュ作品を創出しているのを拝見、その感性や手法に様々なヒントを頂きました。
展覧会に足を運んだかいがあったというものです。

さて、今回のイラストも「月夜三姉妹」が登場。
雪美、月美、花美の雪月花三姉妹が、平安時代の女流歌人に扮し、仮名を披露、サインまでつけております。
向かって右より

三輪の山 いかにまち見む 年ふとも たづぬる人も あらじとおもへば 〜伊勢(いせ)by雪美

岩橋の 夜の契りも たえぬべし 明くるわびしき 葛城 ( かづらき ) の神 〜小大君(こおおきみ)by花美

うぐひすの こゑなかりせば ゆききえぬ 山ざといかで はるをしらまし 〜中務(なかつかさ)by月美
和歌でおなじみ、仮名(かな)は「女手(おんなで)」ともいいまして、万葉仮名を、平安貴族の姫女子たちが洗練させて誕生したといいます。
文化の担い手に女性の感性が加わったこの時代を、とおっってもっきらやばっ☆に描いてみました。
展示にあった後鳥羽院三十六歌仙絵も、佐竹本と比べれば素朴ながら、非常に構成的で面白かったのでこちらも参考に。
※ちなみに佐竹本 伊勢、中務、は今回出展ではありませんでした。
これを描いていたため、記事の更新が遅くなりました。
細かい描写を手間ひまかけて仕上げて行く…これが文字通り「尊い」のだなぁ、と理解したw
■佐竹本三十六歌仙絵
中世に数多く描かれた三十六歌仙絵の中でも、草分け的存在にして最高傑作と名高い「佐竹本三十六歌仙絵」
もし切断されていなければ間違いなく国宝級、ということです。
佐竹氏というと、伊達政宗のライバルだった戦国大名が思い浮かびましたが、平安時代から明治まで続く名門だそうで。
その佐竹侯爵家に伝来した「佐竹本」が、ちょうど百年前に売りに出されるも、破格の値段故に買い手がつかず、絵巻は一歌仙ずつに分割され、別々の所有者のもとに秘蔵。
それが100年を迎えるメモリアルイヤーにほぼ全員が一堂に会す、という素敵な展覧会でした。
今から百年前の1919年といいますと…第一次世界大戦が終わり、ドイツでワイマール憲法が制定されバウハウスが設立、ミュシャがスラブ叙事詩の最初のお披露目をし、日本ではカルピスが発売された年(大正8年)、絵巻分断と流転の物語は色々な逸話がありました。
絵を手に入れたのは、鈍翁~DON-OHこと益田孝氏と当時一流の実業家たち。
私がかろうじて知っていたのは逸翁~ITSU-OHこと宝塚の小林一三氏。
持ち主はいずれも数寄者、歌仙たちは新たに表装され、茶会で披露されることで、新しい価値をもって蘇ったという…国宝にはなれなかったけど。
名のある持ち主が所有していた、という来歴が「名物」となる、日本美術の価値感ですね。
※興味があればNHKさんの番組などご覧下さい。ちなみに切ったのではなく絵巻としてもともと繋いであるものを剥がしたのだそうです。
さて、展覧会は、本物の歌仙絵を生で拝見出来る又とない機会でした。
会場では流麗に描かれた古筆の魅力に心かきむしられるぐらいでしたが、絵の方は…。
私の見る目はまだまだ「見功者(みごうしゃ)」にほど遠いのでしょう、ぶっちゃけ色あせ古ぼけた絵にしかみられず、我ながら残念至極。
後にNHKの番組「日美」や「歴ヒス」の解説で、佐竹本三十六歌仙絵師の神業、その真の価値を知ることになるのでした。
■繊細すぎる描写
「日曜美術館」の解説で理解しました、まるで歌が聞こえてくるかのように…和歌の心情を巧みに描いた肖像の凄さを。
風が吹いたような、衣服や髪の動き、構成の美しさ…まるでシャッターを切ったかのような、瞬間を切り取る止め絵(平安時代にカメラあった説どうっすかね?)
歌に詠まれた風情を、直接描かず(背景は完全な空白)、描かれた歌人の動き、視線、表情で間接的に表している…という絵の魅力。
描かれたのは洗練された理想の歌仙の肖像、人物の描き分け、個性の表出、心情まで。一人一人違う。
金泥、銀泥、雅な文様の緻密な描写。お顔の繊細すぎる描写、ごく僅かな色彩の表現(白い肌のナチュラルメイクっぷりよ)
今のイラストレーションで完成されている様々な絵師の技が、800年前の鎌倉時代に既に描かれていることに驚きを禁じ得ません。
■古筆の魅力
雅な大和絵は、表現豊かな和様書と共にあってこそ。
会場ではとにかく、白と黒のコントラストが織りなす「和様書」が心地よくてたまりませんでした。
雲母刷りの唐紙の竹桃文様に乗せて、奏でるように走らせた書。
まるで楽器の掛け合いのようなハーモニーです。
平安〜鎌倉初期の古筆は特に、柔らかく優雅で、唐直輸入の奈良時代とも、鎌倉以降の武家文化のそれとも違う。
国風文化が花開いた時代に生まれた、日本独自の美意識の最も濃い所、というか原典がここに。
しかし…変体がなはまだ読めない…読めてもそこからさらに書き手の癖があったり…。
因みに選ばれている和歌はあまり聞いた事ないものばかり。百人一首とは違うんだね…。
古典作品は圧倒的に「書」がかっこいいと思う。
鮮やかで雅な画と、モノクロームの筆跡の組み合わせに心わしずかみにされます。
明治時代に世界標準のアートのフォーマットに仕立て上げられた今の日本画には無い魅力。
中国由来の東洋文化を基盤に、書と画が分け隔て無くあった「大和絵」が好きだ。
だから私はそれを目指そうと思う。
■王朝美ルネッサンス〜淋派
展示の最後で拝見した、鈴木其一の三十六歌仙絵が眼福でした。
歌仙たち三十六人が(会場で数えた)一枚絵にわんさか収まって、雅というよりなんだか愉快。
中国の仙人絵のような…酔ってこそいないが、和気あいあいで楽しそう。
倣:緒方光淋…とあったから淋派の画題なのかしらん。
目を引いたのが、歌仙の黒い衣装をたらしこみで再現している所。
古い大和絵の色の劣化が、場合によれば味わい深い美の要素として感じられる…そういった事なんでしょうね。憎い演出です。
古美術好きなら「わかる」淋派ってマニア度高すぎぢゃんね(マーちゃん風に)と思ってたら、その上を行く、後世に作られた佐竹本三十六歌仙絵模本は、紙面のシミまで忠実に再現、ここまでやる古美術マニア最強すぎでしょ。
私もまだまだ見識も感性も足りませんが、こつこつ描いていきますよ。
→月与志墨絵

→墨絵アートてぬぐい〜四神/青龍・白虎・朱雀・玄武
■海外流出する美術
佐竹本三十六歌仙絵が分割された理由に、当時、古美術海外流出が盛んだった事があるようです。
最近でもよく「里帰り」している水墨画の名品や浮世絵など、この時期に海を渡ったものが多いとか。
現在の日本文化の最先鋒のひとつ、漫画・アニメが同じ道を辿りつつあるような話を聞きます。
国の文化美術が流出する、というとまずい事のように思いますが、必ずしもそうではなく、時流の変化で日本で無価値とされたものでも、海外の理解あるコレクターがそれを保護して後世に伝えてくれる事もあるのです。
例えば中国で失われた文化美術が、台湾や日本に伝わって残っていたり。その逆もあるのでしょうね。
このお話、詳しくは、次の記事で。
あいかわらずとりとめのない雑感で申し訳ありません。
最後までお読み下さり、ありがとうございました。
この次は、久々のサブカルチャー記事の予定、「富野由悠季の世界」展に行ってきました。
ご期待ください。スペース・ラナウェイ!
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