2018年02月02日

感想:葛飾北斎〜富士を超えてatあべのハルカス美術館

2018年秋、あべのハルカス美術館開催された、
北斎 ―富士を超えて―大英博物館国際共同プロジェクト

もう去年の展覧会の話となってしまいました(多忙でなかなか更新が出来ず)
昨年はちょとした北斎ブームで、書籍やTV番組でもいろいろ取り上げられ勉強になりましたね。
それら少しでも形に残しておく為の個人的な感想記事です。

向学のため、北斎アニキに倣って偉大な大浪を描いてみました。
ちょうど「国宝展」と被っておりましたので、私の国宝ガールズがひきつづき登場。
この絵が描きたくて時間がかかってしまいました(´ω`)

北斎の描いたグレートウェーブ、その瞬間の形を捉えるには5000/1秒の超高速シャッターが必要だそうです。
カメラのない時代にどうやってそんな「神の領域」を見たのか?

あらゆるテーマを扱い、様々なジャンルを描いた北斎。
風俗画・美人画・春画…あまたの大衆絵画を手がけ、肉筆画に移行した晩年はまさに芸術家の域へ。

以前小布施を訪れた時「森羅万象を描いた」などと軽ーい気持ちで書いておりましたが…今回の展示で北斎の後半生を深く掘り下げることができました。
北斎こと画狂老人卍の到達した芸術とは…?

近年クローズアップされている、もうひとりの北斎とも呼ばれる葛飾応為
ある意味、応為作品が目玉だったかもしれません。娘応為の存在から、晩年の北斎が鮮烈に浮かび上がりました。

こんなお話しです。また長くなるかもしれませんが、その前に…

ぐれいとうぇいぶ.jpg

■ぐれいとうえぃぶ 倣北斎偉大波図

わたくしのblog恒例の戯れ絵ですが、今回は最も有名な大浪図に、北斎おなじみの画題を遊ばせてみようと考え始めまして…。
富士…というと、本阿弥光悦の不二山が繋がりまして、彼女を絵のヘソに据え、前回の「国宝展」で生まれたキャラ達を楽しく遊ばせるという図になりました。
感想:国宝展 at 京都国立博物館〜等伯×永徳・牧谿×梁楷 水墨画オールスター祭りだよ!

そうこうしていると、驚くことに画狂老人さまがしれっと…浪に乗って現れまして、遠く船上から愛娘と愛ネコがそれを見守る図で完成となりました。

描いてみて分かったのですが、既に青い浪を描いた時点でもう何でも絡められる、それ程この構図は完成度が高かったです。
この浪図には円運動の相似=現代でいうフラクタルという感覚で描かれているというのが驚きですね。

展覧会にあわせて制作されたNHK「北斎“宇宙”を描く」によりますと、あの大波〜富嶽三十六景 神奈川沖浪裏〜を捉えるには5000/1秒の超高速シャッターが必要だそうです。
人間の目では到底見る事はかないません…北斎エスパー説ktkl!(´ω`)
ではどうやってこの世界を描くことができたのか…。
ヒントは北斎が出版した絵の技法書。全てのものは幾何学(まる・さんかく・しかく)で描くことができる、というもので、そこから「全体と一部分が相似する」という現代のフラクタルに通じる感覚を持っていたことが分かるとか。
それでこの一枚の浮世絵に、極小から無限に拡張していく「浪」の宇宙を描く事ができたのですね。


■展覧会の感想

さて、富士を超えて―@あべのハルカス美術館 当日の思い出ですが、なにげに訪れたらうっかり長蛇の列。平日なのに。
国宝展より激戦区でした…そう、雪舟パイセンより北斎アニキのネームバリューは遙かに高いという現実を思い知らされたのでした。
全てじっくり鑑賞はあきらめ、さくさくと。好きな作品は何度も並んでライドするというテーマパーク鑑賞でした。

良く知っている浮世絵作品も、波・海・滝=ブルーの作家という切り口で見せてくれました。
単なる風景の記録ではない/より大きな真理を悟るものとしての絵画へ。あべのハルカス美術館の解説はいつも見事ですねぇ。
滝や橋に秘められた神秘性・その流れで、その後の肉筆画の世界観、あの独特の怖ろしくて美しい視点が自然に入ってきました。

そして最も人気があったように感じたのが葛飾応為のコーナー。そこを経た後で訪れた、小布施の男波・女波、そして最晩年の「百亀印」作品群の印象ががらっと変わったのが今回のクライマックスでした。


■北斎の浮世絵

話は浮世絵にもどります。個人的に好きな浮世絵師と申しますと、しみじみした叙情の広重、色気が凄い歌麻呂、スペクタクル国芳、萌え系鈴木春信、だったりするのですが。
北斎は有名だけどじつはそれほどでも(´ω`)子どもの頃の永谷園お茶漬けのおまけ(※浮世絵カード)も集めたのは安藤広重ばかりでしたし。

そう、歌川広重は、おそらく日本では北斎より人気は高いんぢゃないかな(個人的見解です)
北斎の浮世絵は…なんというかキャラに感情移入できないというか、萌えないんですよねぇw(ちょー個人的見解です)
広重の風景画は画中の人に入っていけるといいますか。雨風に煽られる旅人の心中を感じたり…。
しんしんと降りしきる雪の中を黙黙と行く・すれ違う人々の白い吐息が感じられ…この情感が広重の魅力ですよね。
北斎の絵はインパクトがあって面白いけど、ラブ要素がない!と申しますか(意味不明)

北斎人気は海外が凄いようで、19世紀末のジャポニスムブーム印象派への影響など、ヨーロッパで高く評価されてきた事が大きいようです。
風俗画・美人画・春画…あらゆるテーマを扱い様々なジャンルを描けた大衆画家というのも当時の西洋では驚きだったとも。
でもやはり、あらゆる影響を受けながら誰も真似できない独創的な芸術に到達した事が、世界でリスペクトされている理由なのかもしれません。

若い頃の北斎は、定番の浮世絵仕事から出発し、本流の狩野派、流行の四条派、淋派に関心を寄せ、和蘭陀を通して西洋画を学んでいたのは有名ですが、漢画(中国絵画)も積極的に取り入れていたようです。

そういえば北斎が俵屋宗理と名乗っていた時期の美人画は、儚げで美しく…北斎が描いたと思えないぐらい美人(´ω`)※宗理美人と評判だったそうです。
美人画では娘にかなわないと謙遜してるけど、これは評判になるのもうなずけます。
※ここから画像はWikimedia CommonsのPublic domainを引用しています

Katsushika Hokusai - TWO BEAUTIES - Google Art Project
Katsushika Hokusai [Public domain], via Wikimedia Commons

成熟期になると、北斎漫画などの絵手本、富嶽三十六景などの錦絵で、斬新な作品を創り上げ評判になりました。
北斎は売れる絵を描くヒットメーカー、大衆が喜ぶ絵を描けるプロ中のプロだったんですね。


■北斎の芸術〜超自然を描く

北斎作品は膨大で、私も不勉強で全てを見たわけではないですが…ほんと何でも描いているし、精密・雄大・滑稽・ユーモラス・エロ…と画題や画風も様々。
そんな中、錦絵時代に既に北斎の神秘志向が現れてきているものがありました。
グレートウェーブに秘められた神の目線や、滝シリーズや橋シリーズなどは、本当きわどいというか、ほとんどビョーキといいますか…。

Katsushika Hokusai 001
Katsushika Hokusai [Public domain or Public domain], via Wikimedia Commons

身近な日常を描いていながら、単なる写生ではなく、そういった物理世界を超える理を顕わにする絵、ということらしいです。
ある種の宗教画・曼荼羅のような… だからちょっと怖い印象を持ってしまうのかもしれません。

北斎の号の由来にもなった「北極星信仰」の顕われ、という事なのですが…(その辺りはよくわかりませんでした)

そもそも広重とは世界観が違っていたんですねぇ。
北斎の作品はラブ要素はないけど、深い哲学がある、と。例えるなら、キューブリック映画(意味不明)
同じ日本の風景を描いていても、そこに現れているものは作家それぞれ…絵というのは奥深いなぁ。

そういった自身の描きたいものをより追い求めた自然な成り行きとしてでしょうか。
大衆に売る出版ものから遠ざかり、より自由度の高い肉筆画の制作へシフトしていったようです。

2015年に訪問し、北斎の肉筆画をたっぷり堪能した、信州小布施 北斎館。
信州小布施 北斎館に行ってきました

こちらで初めて、肉筆画の世界に出会ったのですが、いわゆるプリントの浮世絵とは違うもうひとつの北斎。
手描きの繊細な筆遣い・色と墨の濃淡の美しさに目を奪われ、そして独特の渋み、神秘性、あるいは奇想狂気すら感じさせる画風が印象に残ったものでした。


■葛飾応為

今回の展示のクライマックス直前に、最も絵の前に人だかりが出来ていたのは…なんとお栄さんの作品。
この数年、小説やドラマ、映画で主役になりスポットがあたっている、北斎の実の娘。
残された数少ない作品が、西洋画的陰影で美しく描かれている事も人気の理由。
今回はある意味、葛飾応為が目玉でしたね。

Cherry trees at night
By en:Katsushika Oi [Public domain], via Wikimedia Commons

暗闇と灯火…月の光に導かれ何度も巡り会いそうな、ファンタジックな世界観。

女性を描けばファッショナブルな空気が漂い、着物や小物の細部への拘りはさすが女子視点
父と共作とされる花図などもカラフルで過剰な程の華やかさ。

偉大なオヤジ殿とは違う個性を放っている女性らしい感性、あえて今風に「KAWAII」と呼ぼう(´ω`)


そこいくと、北斎ニキはやはり迫力が違うねぇ。今回最もインパクトがあったのが「関羽割臂図

三国志でおなじみの豪傑関羽が、腕の麻酔無し手術を受けながら、片手間に将棋を指す、という画題。
腕からしたたり落ちる血の描写がなんとおどろおどろしい!
そして生々しい人物描写。描き込みの迫力…絵のパワーにおもわず息を呑むほど。
凄惨にして華美壮麗、シリアスながらユーモラス。
さすがだねー凄いねー…え?これ応為作品なんですか??

そう、最初は信じられなかったのですが、お栄さんこんなド迫力の絵を描いていたんです。
控え目に言って…父を超えるパワーを感じますよマジで。

女絵師だから「カワイイ」感性だね☆っで片付けてしまうのは全く早計でしたわ。
応為ネキは、北斎の右腕として父を助けるだけでなく、葛飾一門を引っ張っていく存在だったのかもしれません。

葛飾応為が主役のアニメ 百日紅〜Miss HOKUSAIについてのお話し
月与志のカルチャー夜話 第七十三夜 〜葛飾北斎/百日紅〜Miss HOKUSAI


■男波・女波の秘密

いよいよ展示のクライマックス「上町祭屋台天井絵・怒涛図」へ。
以前に信州小布施 北斎館で拝見したときは、ただただその迫力に呑み込まれ…
「80代半ばの老人が描いたとは思えない程、圧倒的なパワーを秘めた破格の絵…」などと感想を綴っておりましたが…。

今回、改めて(落ち着いて)鑑賞するとですね、まず、
派手でギラギラした印象を作っていたのは、青い浪図を囲っている縁絵だったと気づきました。
浪のブルーを引き立てる金地のフレーム、そこに極彩色の花鳥や神獣、さらにはエンジェルまでが詳細に描き込まれています。
このKawaiiセンス…応為ネキのものでしょうか。

そして、このフレームを外して考えると、本体の怒涛図は、ブルー(ベロ藍など三色の青い顔料を効果的に使い分けているとか)と白い飛沫のみで構成された「渦巻き」という、非常にミニマルな構造
力強く圧倒的なパワーは、思っていたより無駄のないシンプルな力で生み出されていたようです。
そしてそれは、応為や鴻山といった北斎を支える若いパワーと相乗効果を生んでいるのではないでしょうか。

北斎の故郷にある「すみだ北斎美術館」に「須佐之男命厄神退治之図」という北斎が奉納した大絵馬があります。
詳しくは→感想:すみだ北斎美術館

こちらも大画面の大変迫力のある作品で、ほんとに老齢の北斎が描いたのかと驚かされたものですが…葛飾一門の若いパワーとのシナジーだとすれば腑に落ちます。
これまたTVの特集で、この失われた絵馬の再現ドキュメントをみたのですが、非常に奥深いテクニックで描かれていました。
経験豊かな北斎の知恵と、応為ら門人の熟練した技がなしえた大仕事なのかも。


■北斎最晩年の境地

北斎晩年の大仕事が、葛飾一門の総力を上げて創り上げたものだったとしたら、
最晩年の肉筆画が、北斎個人の作品、いわゆるソロワークだったのかもしれませんね。

画狂老人の画号を名乗り、富士や百(百歳まで生きる願掛け?)の落款を捺した作品群がそれですが、さすがに老境というか、枯れているといいますか(´ω`)
画業一筋八十年、さすがにそぎ落とされ、洗練され、丸くなっておられるのも無理はありませんね。

最晩年の「雪中虎図」は、老境から一回りした童心さえ感じます。

数年前の小布施の記事では不覚にも「普通、老境を迎えれば、萎え枯れても来るだろうに…画狂老人におかれましてはなお一層ギラギラしておられる…」などと書いておりましたが、今回認識を改めました。
ギラギラするのは、まだ未熟な若者の特権。
卍ニキにおかれましては十分に熟練していた、それでもなお真正の画工を目指し描き続ける、ただただ高みを目指す生涯だったのでしょう。

葛飾北斎、凄すぎて私にはとても届きそうにありませんが、憧れの絵師です。

すみだで絶筆といわれる「富士越龍」を拝見しているので、
後はもう一度小布施を訪れて、二十一畳敷の天井画と聞く「八方睨み鳳凰図」を拝んでみたいなぁ。


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posted by 月与志(tsuyoshi-jp) at 02:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 感想:古典
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