2017年05月10日

感想:ミュシャ展 at国立新美術館

国立新美術館で開催中、アルフォンス・ミュシャ晩年の代表作「スラヴ叙事詩」来日で大変話題になっているミュシャ展の感想レポートです。
前回の記事でも書きましたが、この展覧会はミュシャの故郷チェコとその民族の歴史を描いた壁画のような超大作全二十点の展示がメイン。
鑑賞というよりは、まるで長編映画か演劇を観たかのような不思議な体験でした。

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アルフォンス・ミュシャといえば、アールヌーヴォーを代表する優美で神秘的な作風のイラストレーションで知られていますが、晩年は重厚な絵画作品を残しており、とくに「スラヴ叙事詩」は、まずお目に掛かることはできなかった作品群。
私もいてもたってもいられず、東京は六本木の国立新美術館まで早速、体験しに行って参りました。

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実は日本には世界でも有数のミュシャコレクション(堺市のドイコレクション)があり、ミュシャのグラフィックアート作品を観る機会は多いようですが、「スラヴ叙事詩」を鑑賞できる機会はそう多くはありません(今回の日本が初の海外出展だそうです)
あと一ヶ月、まだの方はぜひ本物に触れてみましょう。私は一生の語りぐさにしますw
ミュシャ展(国立新美術館・2017年6月5日まで)

<これから鑑賞される方へアドバイス>
・激しく混雑しそうですので、チケットは事前準備で行列を回避しましょう。
・絵そのものが巨大です、双眼or単眼鏡があれば便利でしょう。
・音声ガイドが用意されています。会場で絵の内容を理解する為には必要かもしれません。

私はほぼ一日展示会場にいたのですが、「スラヴ叙事詩」の圧倒的な世界にくらくらきました。
「スラヴ叙事詩」も、ミュシャの非常に美しい感性が現れた、神秘的で劇的な絵画なのですが、それを上回るテーマの重さといいますか、描かれたスラブ民族の歴史、人々の争いの歴史、繰り返されてきた悲劇…その重さが圧倒的に迫ってくるものでした。

備え付けの図録を読んだり、映像コーナー(ミュシャの生涯を解説)を利用したりして、適度に休みながらがよいかもしれません。
また「スラヴ叙事詩」のうちの数点を撮影することが可能なコーナーもありました。
※アップした写真はこちらのコーナーのものです

ありがたいことにミュシャのアールヌーヴォ時代の代表作も同時に展示されていて、有名なグラフィックアート作品や、サラ・ベルナールのポスターなど拝見できました。
その他様々な媒体にミュシャアートが展開されていて、小さな挿絵にいたるまで非常に完成度が高かったです。
ミュシャが時代を超えて今でも人気がある理由はこれらを見ればよくわかりますね。

非常に美しい図録、定番のグッズもありましたよ。

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では、私なりのミュシャと「スラヴ叙事詩」のお話しをいたしましょう。

■大きい!
まずなんといっても大きいです。洋画でも(テンペラ・油彩だそうです)ここまで巨大な連作は稀ではないでしょうか?
最大6×8メートルもあります。現物を体験しておきたい最大の理由がこれです。
巨大なキャンヴァスに沢山の人物が一人一人リアルに描き込まれています。手前にいる人物などはほぼ実寸大。絵の前に立つと、まるで現実に風景を目の当たりにしているかのようです。

ミュシャがほぼ一人で、16年かけて20枚を描きあげたそうです(1枚のみ未完とされています)城を改装した広いアトリエで、ハシゴに登って描いたとか。
なぜこんな巨大なサイズになったのか?そこにミュシャの作家としての並々ならぬ想いがある気がいたします。

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■ミュシャが演出したステージ
リアルでありながら、巨大な人物(神を表している?)や、宙に浮かぶ人物などが登場し、やや幻想的な作品もありましたので、私は「まるで劇場の舞台を観ているようだ」と感じました。
美しいライティングで浮かびがった役者達がいきいきと語り、動き出しそうな、ドラマティックな劇伴が聞こえてきそうな、まるで美しい歴史群衆劇の一場面を観ているような体験です。
時折、絵の中の人物の強い視線に気づくときがあります。キャンヴァスに描かれたステージから一歩こちら側(鑑賞する我々)に降りて来ている感じがする人物もいました。まるでステージから演者が突然語りかけてきた時のような感じ。
ミュシャのキャリアを調べてみると、生涯を通して「演劇」と深い関わりがあったようですので、この直感はわりと自信があるのですが、いかがでしょう?
スラヴ民族の歴史という大きなストーリーを考え、ステージを演出し、チェコの村人がキャストとして市井の人々を演じた、スラヴ叙事詩とはそんな作品だったのではないでしょうか。

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■これはミュシャの絵なの?
一般的に知られているミュシャ作品の、アールヌーヴォーの優美なイメージとはかけ離れた、まるで別人のような絵画作品に驚かれる方も多いと思います。
ミュシャのアールヌーヴォー時代の作品は、30代の頃パリで制作されました。
演劇や商品の広告物や挿絵といった商業美術、グラフィックアートと呼ばれたリトグラフ作品など、現代でいうグラフィックデザインですね。
制作期間も短く、複製品なので絵画より比較的安価に流通した商品。人気=売れる事も重要でした。

一方「スラヴ叙事詩」は、ミュシャが後半生(50代以降)に一大決心して描いた油彩画。
民族の歴史を象徴的に描くという明確なテーマを自身で構想し、パトロンを見つけ、制作期間は構想含めおよそ20年。
プラハ市に寄贈する前提で制作されたので、いわゆるプライスレス
画題に歴史的事件や宗教戦争なども含まれるため、重厚な内容。

比較してみると、こういった違いがあります。
作風の違いは、単に技術の向上だけではない、絵を描く事に対するミュシャの姿勢の変化が表れてれているように思います。


■芸術家の使命
芸術の都パリでアールヌーヴォーの旗手と認められ、時の人となった30代のミュシャですが、心中は色々複雑な思いがあったのかもしれません。
青年時代のミュシャは芸術を学んでいたボヘミアン(芸術志向の放浪者)でした。貴族の後援を得てウィーンやミュンヘンで学び、パリへ出た所で援助を打ち切られ、稼ぐための商業美術の仕事をはじめました。
そんな中、パリで新しく興隆していたアールヌーヴォー様式に乗った演劇ポスターで注目を集める存在になり、成功したものの仕事に忙殺される日々。
転機は、パリ万博の仕事がきっかけで、スラブ民族の歴史を取材した事、そしてチェコの民族音楽運動の推進者・スメタナの交響曲「わが祖国」(モルダウで有名)を聞いて感銘を受けた事と伝わります。
当時、ミュシャの故郷ボヘミアを支配していた勢力が弱まり、東欧各地に民族独立の機運が高まっていました。その流れの中、芸術家として出来る事=使命をミュシャは見い出し、奮起したのではないでしょうか。
パリを離れ、故郷に帰ったミュシャ(フランスの発音)はムハ(チェコでの発音)となり、以後は祖国のための仕事に専念することになります。

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■ミュシャが描きたかったもの
今回、ミュシャに関するTV番組(展覧会後援はNHK)を拝見し、書籍も読みましたが、東欧の歴史、チェコやスラブ民族の歴史は非常に複雑で、簡単に理解出来るものではありませんでした。
「スラヴ叙事詩」は、民族の歴史をテーマに描いているので、この辺りが分からないとどうにも歯がゆいのですが、ガイドを聞いたり図録など読んでも中々難しかったです。
せめてこの巨大な絵画のもたらす経験を感じとろうとした訳ですが、これら絵画には、歴史的背景を共有できなくても伝わってくる普遍的な感動が確かにありました。
それが、100年を経た「スラヴ叙事詩」に今ある価値ではないかと思います。

歴史的な背景を調べますと「スラヴ叙事詩」は、民族の連帯と独立の為にミュシャが構想した物語で、チェコの独立やその後の政治的な状況の移り変わりの中で、その価値は時代にそぐわないものになっていったようです。
(戦後、古城に秘匿され日の目を見なかった時期が長かったのもその辺りに原因があるようです)一部の人々に批判をうけても、それでもミュシャが情熱的に最後まで描きあげたのは、それが単に政治的な思惑の産物だったからではなく、普遍的な命題を描いた「芸術」作品だったからではないでしょうか。

後半生を費やしてやり遂げる価値の在るもの、世間の評価も批判も関係なく、自身が信じた「芸術」を後世に残したい、ミュシャがそう考えて描ききった作品だと私は思います。

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いつものごとく番組でもミュシャのお話しをしました。お待たせしておりましたアーカイブをあげましたのでご覧下さい(奇しくも最終回となりました〜2017年春)

月与志のカルチャー夜話 第百三十夜(終)〜アルフォンスミュシャ・スラヴ叙事詩




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posted by 月与志(tsuyoshi-jp) at 20:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 感想:近現代
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