2018年12月27日

感想:物語とうたにあそぶ at中之島香雪美術館〜市中の山居に憩う

師走の多忙の合間を縫って、大阪中之島の高層ビルの中にある、中之島香雪美術館を訪れました。
開館記念展part5「物語とうたにあそぶやまと絵和歌の優美な調和を感じてまいりました。

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普段は五重塔より高い建物のない奈良に居るので、都会に出てくるとなんだか居心地悪いのですがw
フェスティバルタワーという当世最新の塔に登ったら、そこには思いがけなく詫びた茶室が…。

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2018年三月にオープンした新しい美術館だけに、美しく上品な空間という印象。
超高透過ガラスと、暗めの照明設定で作品鑑賞に浸れるという狙いがあるのでしょう、歌と物語の世界をたっぷり堪能いたしました。

中之島香雪美術館 開館記念展「 珠玉の村山コレクション 〜愛し、守り、伝えた〜 」V 物語とうたにあそぶ


展示は絵巻と書跡が中心で、やまと絵と和歌の優れた作品が続々と。
この最近興味が高まっているジャンルでもう私的にドストライク!!

ぎゅーんと言魂がしゃうとするのです!
墨絵アートてぬぐい〜龍田川紅葉 


【フリースタイル和様書の世界】

まず最初に遭遇するのは藤原定家(小倉百人一首の撰者)の名高き小倉色紙
正方形に近い色紙にほぼ両端揃え、ひらがな等間隔、太め強めな印象の書風(定家様〜ていかよう)は、鎌倉武家の時代の書ということです。

やはり好きなのはズバリ平安朝のかなの雅
高野切れ(古今和歌集最古の写本・秀吉さんが高野山に伝えた事から)の(伝)紀貫之や、三跡 小野道風の、針金のようにシャープで柔らかい書跡にゾクゾク。

歌の作者の肖像と和歌を組み合わせた「歌仙図」がさらに面白い(江戸期以降は小倉百人一首のカルタなどでお馴染み)
漢字・仮名・変体仮名を自在に組み合わせて、濃淡や大小、疎密、行間の変化を立体的に考えてほぼ即興で書くという…
それがさらに人物絵と呼応するとかほぼレイアウトデザインの世界ですわ。

いわゆる散らし書きという感覚は日本独特の美で、本家中国の書ではまずありえないんだとか(そもそも仮名がない)
それにしても、この自由気ままな改行、配置、変形(かなを曲げたり伸ばしたり)とか…中世の宮廷人フリースタイル具合がはんパナいの!

最近変体仮名(へんたいがな)を少し解するようになりまして、すると暗号にしか見えなかった仮名がしっくり来るようになりまして…
そうなると逆に、平仮名(ひらがな)だけで書いたものはちょっと普通というか、物足りなくなってきたんです。
やっぱりここぞという所にヘンタイを配するとキマるんですよね、以前は読めない仮名は敷居が高い、なんだかいけ好かない、お高くとまりやがって!って思ってたんですがねw
私も立派なヘンタイ紳士に足を踏み入れつつあるのでしょうか。

書のグラフィックな魅力だけではなく、歌そのものも味わい深く面白く、それが絵や書風と響き合うところが、やまと絵&やまと歌が共に在ったという意義なのでしょう。
やまと絵が伝統的に記号的(非写実)なのは、歌や物語との関わりが深かったからではないかと思いました。

歌というのは考えてみると象徴的で記号的な言葉の表現ですからねぇ。
和歌の世界で紅葉といえば竜田川、桜といえば吉野山、山吹といえばぶっきー(フレプリ)ぢゃなかった井手の玉川。
そんな共通認識を利用して、工芸品などの意匠で読み解き遊びを盛り込んだり…源氏物語の表紙の装丁は豪華で美しかったなぁ。

和歌が書かれなかった空白が未完成感のある歌仙図は、珍しい写実的な肖像…と思ったら(伝)円山応挙筆でした。

そういえば、歌仙図といえば讃岐の国の金刀比羅さん、あそこには円山応挙・伊藤若冲もあったなぁとふと思い出した。
香川アートスポット〜金刀比羅宮


【めくるめく絵巻物の世界】

流麗なかな書に静かに興奮しておりましたが、やまと絵もまた素敵でした。定番の源氏物語はいわずもなが。

ずっとみたかった岩佐又兵衛の肉筆画を拝見。保存状態が良いのか、金銀の本来の効果が保たれていてデモーッルト良い!
特に、精密に描かれた武人達の輪郭線が金で輝いてる。やまと絵独特の濃彩色と、金泥の霞の輝きが、本来はキラキラこのように調和しているのかとわかる逸品でした。キラやば〜っ☆

江戸初期の絵師、岩佐又兵衛は人々の喜怒哀楽を描くことで浮世絵の祖とされる(と、へうげもので読んだ)
描いた堀江物語絵巻は武人の仇討ちの物語、侍は元々は貴族に雇われていた私兵で荒事の当事者だったとか、そんな事を思い出させるやや荒ぶる武人像でした。
そんな侍層の中にも黄金の志を抱いた若者がいた、この源頼朝には正しいと信じる夢がある!平家のボスを倒しサムライスターに…略)

浦島物語絵巻、漁師なのにまるで貴族のような生活で描かれているの笑ったw auも驚く荒唐無稽。

池田孤村が描く平安歌人 赤染衛門は美人さんでした。美しい和歌を詠むというだけでときめくという平安貴族の妄想、分かる気がしてきたw
コレクションは中近世のやまと絵が多いそうなのですが、古美術的な価値はともかく、劣化の少ない美しい絵は鑑賞にはよいと思う。

紅葉の小袖がおしゃんてぃーな立ち美人図、「竜田越え」の意が込められているという。
後ほど、伊勢物語の段で詳しい話を知りました。筒井筒で結ばれた夫婦のお話し。

「風吹けばおきつ白波たつた山 夜半にや君がひとりこゆらん」
浮気に出かける旦那の道中を、健気な妻が身を案じて詠んだ歌、そんな物語がこの絵に描かれた女性には含まれていた、奥深いものですねぇ。

伊勢物語のやまと絵、人物はかわいくデフォルメ、でも描写は意外に精密…それって萌絵と同じやん!日本の中世絵画って未熟だから描写が拙いのだと思ってたけど、そうじゃなくあくまでkawaiiのが好きな民族性だったんだねぇw

おっと、有名な絵師の作品もありました。
江戸淋派の祖 酒井抱一の短冊。なんともやわらかくグラフィカルでさすがの優美さでした。
そして葛飾北斎肉筆画帳。まるでグラビア印刷のようなクオリティでほんとに肉筆画なの!?これぞ神業ですねぇ。

感想:葛飾北斎〜富士を超えてatあべのハルカス美術館

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【中之島香雪美術館】

そんなわけで、有名所も押さえている優品コレクションが、開館記念割引き(ポスカをどこかでゲットした)で800円で楽しめるとかもう十分すぎました。(このジャンルに興味があれば、でしょうけども…)
大阪の新しい美術館、おすすめです。2019年春は鳥獣戯画の特別公開もあるそうですよ(明恵のみた夢の展覧会)

京都博物館で拝見したときの記事
墨絵の金字塔、鳥獣人物戯画を拝見してきました

コレクションにはフーテンの梁さん(梁風子=梁楷)の「布袋図」もあるそうです(東山御物・重文)お土産のパッケージになってたw
感想:国宝展 at 京都国立博物館〜等伯×永徳・牧谿×梁楷 水墨画オールスター祭りだよ!


香雪美術館は、朝日新聞社の創業者、村山龍平(号:香雪)氏が収集された美術品を展示する施設ということで、コレクションはこれらの他に、数寄者らしい刀剣などの武具・茶器・書跡・仏教美術が中心。
朝日新聞って大阪だったんですねぇ。フェスティバルホール、甲子園の全国高校野球、東洋古美術誌「國華」の支援など、様々な文化的後援もされているとか。

館内にはお茶室がまるっと再現、古田織部の茶室「燕庵」の写しだそうです(藪内流燕庵→玄庵→中之島玄庵イマココ)
「燕庵」(えんなん)というと、客人のお供(ご家来衆)の相伴席を設けたという事で、戦国の世で利休居士が主客の立場や身分の差を超えた密接な場として発展させた茶室を、古織殿が新たな江戸の武家社会にあわせて変えたとか師の意志を曲げたとか(と、へうげもので読んだ)いわれてたアレですね。

戦国の世に発達した茶室は、戦の合間にほっと心を和ませる空間として多忙でストレスフルな大名武将達に必要とされたのだろう…と、再現された茶室を眺め思いを馳せつつ、大阪ビジネス街ど真ん中のこの美術館はまさに市中の山居でした。

日本美術の優美な世界に浸ったら、さぁ年末の追い込みにいざゆかん!
(と、いいつつこんな長文書いてしまったオレ乙)

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中之島玄庵
追記2019年2月
二回目の「物語とうたにあそぶ」へ。岩佐又兵衛の絵巻や北斎肉筆画帳の別画を拝見。でもそれ以上にかなの達人の優雅な書跡を眺めるのがディ・モールト心地よい!

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2018年12月05日

墨絵アートてぬぐい〜龍田川紅葉

竜田川紅葉.JPG

嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は 龍田の川の 錦なりけり〜能因法師

先日、葛城山に登ってきました。
舞い落ちた色とりどりのが敷き詰められた道は素敵でした。

頂上にたどり着いたら、紅葉の木々、すすきの草原と、遥か彼方の雲海が眺められ気持ちよかったです。
この感動を絵に表現して作品づくりに生かしたい、と思い構想を練った作品です。

えーぶっちゃけ三室山には登ってませんw
ですが「千早ふる 神代も聞かず 龍田川〜」と詠んだ在原業平も現地を訪れてない(屏風に描かれた紅葉を見て詠んだとか)そうなのでまぁいいでしょ(´ω`)←いいかげん


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「三室山」「龍田川」は「紅葉」の歌枕なので、イメージの世界ということで。
とはいいながらご近所ですしね、またいずれ竜田川へ紅葉狩りに訪れてみようっと。

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秋のおでかけスケッチで、伏見稲荷神社を訪れました。
伏見稲荷は子どもの頃から知っていたけれど、訪れたのは初めてで、なんと山頂にあるとか知らなかった。
ちょっとした登山になってしまいスケッチどころではなかったのですが。

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登頂後なんと、この数年煩っていた症状が治りまして!ありがたい御利益があったのか、たんに運動不足が解消されたからか、とにかくプチ登山に目覚めた、というわけです。

それに山中では木々花々を沢山鑑賞できますしね。
葛城山も、春はつつじ・片栗の花・ショウジョウバカマが楽しみです。


この秋は「秋の七草」を写生しておりました。
おでかけスケッチ〜秋の草花

墨絵アートてぬぐい〜紅葉に鹿


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秋の七草のひとつ、(くず・かずら)大和国吉野国栖が名の由来とも。
すすきと共によく見かける草だけど花は葉裏に隠れるように咲くので印象が薄い。
裏見草という別名から「恨み」に掛けた歌が詠まれる。
おなじみ狐が化ける時に頭にのっける葉がくずらしい(由来は安倍晴明の母狐)
根は巨大に育ち、くず餅や葛根湯になる。繁殖力が非常に強く海外では侵略的外来種扱い。
とまぁ意外にエピソードの多い草花でした。身近なのに全然知らなかったなぁ。


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秋の七草 最後は「あさがお
万葉集で詠まれた「朝貌の花」は桔梗と目されているようです。
時代によって「あさがお」が指す品種は異なるらしい。
星形の花はとても特徴的、そこから意匠された桔梗紋は美しいですね(明智光秀で有名)
風船のようなつぼみから英名はバルーンフラワー。白色や桃色もあり。
愛好家が多いのでしょう割とよくみかけるのですが…絶滅危惧種なんですね。

とりあえず、秋の間に七草スケッチが終えられてよかったよかった。絵づくりにとても役立ちます。


山上憶良が詠んだ秋の七草に因んで、毎回和歌をへたっぴながら書き添えて練習していたのですが。
和歌かな文字の雅な世界にちょっとハマってきました。

日本において「文学」の中心はいつも「和歌」だったのです。
「雪国」でも「坊つちやん」でも「源氏物語」でも「ノルウェイの森」でもなく、五・七・五・七・七にあらゆるこころを織り込んだ短い詩、和歌こそが日本人の文学だったのです!
ぎゅーんと言魂がしゃうとするのです!

えーむちゃくちゃ言ってますねwまぁでもそれぐらい目から鱗だったってことですわ。

奈良に都があった時代の「万葉集」では、じつはまだ日本語を表す文字がなかったので、中国由来の漢字をあて字に使っていたとか。
これがいわゆる万葉仮名とか「変体仮名」ヘンタイすぎてわたしのような凡人には読めませんが、そこから発展して「かな」という独自の表記文字が生まれたというわけです。

日本独自の文化が熟成されたという平安期に生まれた「かな」や、「和歌」(やまとうた)は、「大和絵」(やまとえ)と同じく、日本独特の美意識の源泉なのだろうと思うと胸アツわくわくしまする。
という意味不明なモチベーションを持って、来年の墨絵アートてぬぐいはより雅にいきたいなぁ。

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来上がり次第随時お納めしておりますが、手描きですので数に限りがございます、予めご了承ください。

最新作はSNSにて随時お伝えしております。

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墨絵アートてぬぐいにつきまして、詳細は以前の記事をご覧下さい
朱鳥さま 墨絵アートてぬぐいのご案内

月与志|手描き墨絵てぬぐい


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花枯れる季節の今、驚くほど花盛りなのが、さざんか。
よく見るとバラのような豪奢さもありますね。
椿とほとんど見分けがつきませぬ(´ω`)

冬は梅、そして春の桜を描くのが今から待ち遠しいです。

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2018年12月04日

感想:東山魁夷展 at京都近代美術館〜美しすぎる障壁画の世界

私がかつて見た中で最も美しいと思う日本画の一つは…東山魁夷先生の描かれた「海」
随分前になりますが、奈良の唐招提寺御影堂で拝見した、鑑真和上をお慰めするために描かれたという、美しく穏やかな緑の海と、静けさが伝わってくる深山を描いた障壁画です。

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その感動を再びかみしめるため足を運びました。
生誕110年 東山魁夷展 at京都近代美術館

今回は美術館で拝見したためより客観的にじっくり鑑賞できました、そして昔は気づかなかった「鑑真和上の故郷中国を描いた水墨画」の魅力について感想を述べますね。


【東山魁夷画伯の作品世界】
東山魁夷画伯といえば大変著名な日本画家。香川を旅した時とか今まで何度か絵を拝見する機会はあったのですが、改めてその全容を知る事となりました。
生涯をかけて描きつづけた美しい自然風景。それは「単純化→抽象化→普遍性の獲得」であると感得いたしました。

私らしくない固い文面ですね〜(´ω`)まーびっくりするぐらい整った風景画だなーという印象ですね。
私も2018年は風景を描く事に意欲を燃やしていたところで、この広大な「自然」にどう向き合って描くのかを求めて訪れたのですが…。
その答えは、まるで抽象絵画のような風景画、描ききれない複雑混沌とした自然を単純化し、そこに普遍的美を見いだす、という絵でした。
(よくよく見るとただ単純なリピートではなく、時折その反復の和を乱す要素が入っているのがミソですねぇ)

国民的画家と呼ばれたという画伯の代表作が、日本の何処にでもありそうなごく普通の草むらの絵だったりするのが素晴らしいです。

もう一つの特長としましては、単一の色で描かれている、夕景・夜景が多い、季節では晩秋とか厳寒の冬の絵がほとんどのような印象でした。
北欧に惹かれて旅をして神秘的な作品を残しておられたり…暗い・冷たい・寂しいのがお好きだったのかなと。
音楽で言えば短調(マイナー調)ですかね、確かにそういうの心に染みるナー。

風景画は心の投影、という事でした。
こういうのって作家の内なる何かなんですかね?南方の明るさに惹かれたゴーギャンや田中一村と比較すると興味深いです。


【唐招提寺障壁画】
魁夷画伯の作品世界を巡った後はいよいよ障壁画です。
こちらは先生熟年期の1970年代にほぼ10年がかりで制作されたという大作。

唐招提寺 御影堂は平成大修理中でしばらくはお目にかかれないのだけれど、この障壁画はやはり鑑真和上像とともにあることで特別な意味を持ち、深い感動を与えてくれます。
とはいえ美術館で拝見するのだから一枚の絵として鑑賞・客観的に分析するのもひとつの経験でした(いろいろテクをみつけてきましたとも、ええ)

とはいいながら、仏教美術をそのような目で見る事にやましさを感じるのも事実です、仏像をプロダクトデザインとして見ているワタシ罰当たり。(以後、不遜な発言はご容赦ください)

まずは再びお目にかかれた、魁夷画伯の暖かく穏やかな海に感動を禁じ得ません。
盲目の鑑真和上に穏やかな日本の海をお見せしたいと、先生自ら日本各地の海を写生する旅に出てついに普遍的な日本の海を描きあげたというエピをもし知らなかったとしても、この美しさは響きますよね。

海の波打つ音が穏やかだけど力強く響いてくるかのような「濤声」と呼応するように、深い山奥の霊気を描いた「山雲」こちらはしんと静まりかえった静寂、夏でも凍えるような冷たさと神秘性を感じさせます。
不思議な事に何処から鳥の声まで響いてくるような…と思ったら、さりげなく雲雀が描かれておりました。

今流行りの360度VR映像なら、触ると飛んでいきそうですね(触っちゃ駄目ですが)
それにしてもVR以上にリアリティのある空間が50年前に描かれているなんて。
いやもっと昔から障壁画というヴァーチャルリアリティ空間は日本にあったのですねぇ。

襖絵だからなのか、日本の風景を丹念に描いているからなのか、東洋的な「間」というか、どことなく抜け感があるからなのか、これまで見てきた魁夷先生の作品とはちょっと違う印象です。

その思いは、さらに第二期の障壁画、鑑真和尚の故郷中国の風景を描いた水墨で深まりました。
正直申し上げますと、最初に御影堂を訪れた時には、美しすぎる海と山の色彩にただただ心打たれ、これら水墨の異国風景はスルーしてしまいましたが、今回は違います。

私も水墨を手がける絵師の端くれとしてあれから多少目は肥やしてきました。
逆に言うと、中国の水墨画を知らないと「桂林月宵」や「黄山暁雲」の事はピンと来ないのは仕方ないのかもしれません(いまだそれほどピンとこないワタシ)
そこには中国の水墨を育んだともいう絶景の景勝地、幻想的なそびえ立つ山また山(というか画家の妄想でなく本当にあったのかという)が描かれているという事です。

揚州薫風」は鑑真和尚の故郷だからでしょうか、やさしく暖かくノスタルジックな雰囲気でした。
モノクロの水墨なのに暖かいだなんて?絵に込められたストーリーでそう感じているのでしょうか?
いえ、どうやらそれは全体的にぼんやりした遠い風景として描かれているからでしょう。
ここは美術館なのを幸いに細部まで食い入るように検証したのですが(流石にお寺ではできませぬよ)ディティールをはっきり描かないぼかした味わいが幻想的で、不思議な夢心地を誘うのです。

なるほど、ぼかしが美しいのはまさに水墨画の面目躍如、そしてどちらかといえば冷たく厳しい風景を好んで描いておられた魁夷画伯のいままでとは違う画境を拓いたのではないかな、と。
この時初めて水墨画に挑まれたということです、その切欠になったのが、この大作のため当時は渡航が難しかったという中国を訪れ、水墨画を生んだ中国の風景に触れたからだそうです。

現在、東京でも東山魁夷展が行われ、「美の巨人」でもこの御影堂第二期障壁画を詳しく取り上げてくれたお陰で知りました。
この水墨画は紙に滲み止めを施して描かれているとか…え!?ぼかしてないんかーい(´ω`)という驚き。
墨で描いてもそこは魁夷画伯流の描き方で描いているんですね。
ぼかさずにぼんやりと描きあげた「モノクロームの幻夢」いやーこれ見習いたい(´ω`)

とまぁ、絵描きの性で技術的なところばかりほじくってみっともないですが、やはり大事なのは何が描かれているか、こころで感じ取ることですよね。
穏やかな海と、静かな深山、日本の普遍的な美しい風景に磨き上げられた画面や、異国の風景には、その土地の空気感や過ぎ去った時間まで息づいているような気がします。
それを綿密な写生の積み重ねで実現しているという事実に、深い畏敬の念を抱きます。

ところで、この御影堂障壁画に取り組んでいる同じ時期に、魁夷画伯は好んでファンタジックな白馬を描いていたのだそうです。いったいどういった心の現れだったのか、絵画芸術は本当に奥深いですね。

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京近美2018日本画の巨匠たちシリーズ(勝手に命名)
次は、生誕150年〜横山大観展のお話です。こちらはおもしろおかしく書く予定(やめなさい)

感想:藤田嗣治展 at京都国立近代美術館〜乳白色の夢・戦争・祈り

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